『1斤 = 450g』にたどりついたハナシ
第8回【紙の厚さのハナシ】の中で触れました『#』という記号を『きん』と読む…という “謎” について語ってみたいと思います。
『 “ # = きん” も、実は重さの単位』であり『 # と <> には相関関係があります』
と、第8回に書きました。
これを読んで、勘の鋭い何人かの読者さんはお気付きでしょう。
そうですね、重さで “きん” って言ったら『斤』の一択でしょう。
他に選択肢は無さそうです。
3ダースもそう思ってました。
ちなみに現在、一般的に『斤』が使われるのは “パン業界” のみでしょうね。
食パンのパッケージを見ると『1斤=340g以上』と書いてあります。
ちなみに食パンの1斤って、普通にスーパーやコンビニで売ってる6枚切りのパンが6枚入ってる立方体の袋1個分のことです。
6枚切りの厚さのパンが3枚入ってる袋は『半斤』だし、高級食パン店で売ってる “長めの食パン” は『2斤』ってことです。
(この2斤分の長い食パンのことを1斤…と誤解してる人が、少数ですがいらっしゃるようです)
という声も、続いて聞こえて来そうです。
そう、普通に “斤” を調べて行くと『1斤 = 600g』にたどり着きますが、それでは不正解なのです。
そうなると『斤』という漢字を見つけてくれた時点にさかのぼって “失格” となります!
だれか、正解にたどり着けた読者さんはいらっしゃいますか?
600gじゃない “斤” を見つけられた読者さんはいらっしゃいますか?
いらっしゃらないようですね。
この問題の正解はそんなに簡単には見つけられませんから…
では “正解” をお知らせします。
『450g』です!
3ダースも、この真実にたどり着けたのは5~6年前。
当時、美術用紙の紙問屋さんの営業マンに聞いてみても正確な答えをご存知なかったため、あれこれ調べて自力で正解を導き出したんですが、その答えを真っ先にその営業マンに電話で伝えました。
その彼もビックリしてました。
小さな画材屋の店主が、
紙業界の…ほぼ誰も正解を知らない難問を解き明かしたのですから。
では、なぜ1斤 = 450gが正解なのか、もう少し詳しく解説しましょう。
『斤』とは、尺貫法で重さの単位として使われていたコトバです。
Wikipediaを見てみましょう。
【通常は1斤 = 16両 = 160匁 (もんめ) 。1匁 = 3.75g。1斤 = 600g。これとは別に各種の『斤』があった。
『英斤 (えいきん) 』120匁 = 450g。舶来品に対しては、1ポンド (453.6g) に値が近い120匁 (450g) を1斤とし、これを英斤と呼んだ】
つまり『斤』と書くものの、日本伝統の尺貫法の中に属する “斤” ではなかったんです。
舶来品 (輸入品) である洋紙に対しては、1ポンドに近似する450gの数値を斤 (すなわち “英斤” ) として使っていたのです!
他にもパンやバターなどが、“英斤” を基本単位に使っていました。
(食パンも元々は450gを1斤としていましたが、時代とともに数値が見直され、現在では “340g以上” となっています)
ネット上では、紙に関して『1斤 = 450g』という正解を書いている人は一人も見つけられませんでした。
3ダースが常々参考にしているブログ (コラム) の著者であるN氏も、この『斤』に関しては見事に間違っていました。
400件近い量のコラムを書いたN氏 (元、王子製紙社員) ですが、この “斤” と…四六判のもとになった “クラウン判の大きさ” に関しては間違って記載しておられます。
なかなか正解は見つけられませんでしたよ。
もちろん3ダースも一番最初は『600g』と思ってしまったんですが、それではまったく “計算” が成り立たないので…600gではない別な数値を探しに行った…というわけ。
そして正解にたどり着くために、もうひとつ重要なカギが必要でした。
このカギによって “計算” が成り立ち、
『1斤 = 450g』が正解であると確信しました!!!
では…ちょっとご一緒に計算してみましょう。
<180>のケント紙は
1,000枚の束にして重さを量ると180kg…という意味でした。
つまり1枚の重さは180g。
これを戦前の取り引き単位
500枚で重さを量ると…
180 × 500 = 90,000g (90kg)
1斤 (英斤) = 450gだから…
90,000gが何斤なのかを知るためには450で割れば良い。
90,000 ÷ 450 = 200 (斤)
ね?
「第8話_紙の厚さのハナシ」で書いたように
『 #200 = <180> 』
が成立します。
『 # の数値に0.9を掛けた値が、その紙の1,000枚束の
kg 表示の重さになるのです』って、第8話に3ダースが書いてた通りになったでしょ?
紙問屋の営業マンが驚いたのもここ。
戦前の1連が500枚だったという『カギ』が見つけられ、計算が成り立ったことなんです。
さらにその営業マンは戦前の1連が1,000枚束ではなかったことの推測として…『フォークリフトが無かった時代ですから、やっぱり人間の手で車の荷台に上げたりしたんでしょう。
何人かで担うにしても180kg (1,000枚) よりも90kg (500枚) の方が現実的ですよ』と。
もちろん彼も現場を知るプロですからすべての紙が
1,000枚での一包みになってる…と思っているはずはありません。
100枚束を10包みとか250枚束を4包み…というように、1連を小分けして包んでいる事は百も承知ですが、現在
1,000枚の単位が戦前には
500枚だった…という事実を説明するのはフォークリフトの有無で考えるのが自然でしょう。
しかし、製紙や問屋の現場をほとんど体験してない3ダースがたどり着けた正解を、一生の大半を製紙会社で過ごした “大御所N氏” が気付けなかったことには、3ダースはガッカリしました。
N氏は『1斤 = 600g』という答えにたどり着いた後、上記の計算をしなかったがために、今もネット上に間違いをさらし続けております。
何事も面倒がらずに、しっかり確認しないといけません。
でも、戦前の日本は “尺貫法” の世の中だったはず。
なぜポンド (英斤) の単位がはびこっていたのでしょうか?
それは、当時の計測方法を定めた法律…『度量衡 (どりょうこう) 法』に答えがあります。
多くのヒトが誤解していますが、度量衡法=尺貫法ではありませんよ。
“度量衡法” の中に、『尺貫法』『メートル法』『ヤードポンド法 (長さはインチ・フィート、重さはオンス・ポンド) 』での計測を認める…って書いてあるんです!
当時の世の中で使用可能な計測方法を明文化して定めた法律だったんです。
戦前に、ですよ。
尺貫法の時代に!
メートル法も、ヤードポンド法も認めちゃってたんです!
なんてグローバルだったんでしょう!!!
我が先人たちの視野の広さには舌を巻きます。
江戸から明治になった頃、先進技術は欧米から大量に…急激に流入して来ました。
それをいちいち尺貫法に変換して受け入れたのでなく…否応なしに、メートル法やヤードポンド法を “込み” で受け入れていたのです。
フランスはメートル法発祥の国。
イギリスはメートル法を導入したのは日本より遅く、現在でもヤードポンド法が一部で使われている国。
アメリカにいたっては現代になってもメートル法をメインの制度には据えず、ヤードポンド法に固執している…珍しい国です。
これらの国から一気に、明治初頭の頃に先進技術が流入して来たのですから、尺貫法・メートル法・ヤードポンド法が混在していたことはうなづけます。
3ダースは少し前に板ガラスの事をいろいろ調べていましたが、やはりガラス業界も明治時代からインチやフィートの単位を使っていて…現代でもそのハッキリとした名残りが定尺寸法などに見られます。
だから、『戦前は尺貫法なんだから1斤と言えば600gに決まってる』としか考えられないアタマの固いヒトではなく、明治時代にもメートルやインチやフィートを使う業種が有った事を知る人間こそが、“別な斤” の存在に気づけた…というわけです。
広い視野がないヒトは、永遠に正解にたどり着けない問題だったんです。
ここ3ヶ月ほど、このメルマガのために紙のいろんな事を調べました。
そうしたら、“# = きん” の…本当の究極の完璧な真実の正解を、見つけられました。
なんと、『斤』よりも…もっともっともっと相応しい漢字が有ったんですよ!!!
これは “きん” とも読みますが、本来ならカタカナで『ポンド』と読んでいただくのが正解なのです。
もうわかっちゃいましたね?
そう、イギリスの重さの単位『ポンド』をダイレクトに意味する当て字…というか、“単位用漢字” ってヤツですね。
ヤードポンド法の単位を表す漢字は、既に明治時代には以下のように出揃っていました。
吋 = インチ…in
呎 = フィート…ft
碼 = ヤード…yd
哩 = マイル…mil
喱 = グレーン…gr
啢 = オンス…oz
听 = ポンド…lb
※ 1ft = 12in
1yd = 3ft
1mil = 1,760yd
1lb = 7,000gr
1lb = 16oz
ちなみに、イギリスの通貨もポンドと呼ばれますが、そのポンドには『听』とは別な漢字が当てられていました。
磅 = ポンド (英通貨) …£
ちなみにアメリカのドルは…
弗 = ドル…$
です。
見たまんまの漢字が当てられましたね
なお、重さのポンドの正式な単位記号は『lb』です。
アルファベット小文字の『エル・ビー』です。
ポンド (pound) のどこにもLもBも使われてませんが、『lb』の由来はラテン語の天秤…リーブラ (libra) から。
もともとは『リーブラポンド』で “天秤で量った重量” という意味だったそうです。
だから『ポンド』は “重量そのもの” の意味。
『何』の重量を表してるのかというと…人間が1日に食べるパンの、その原料の重量。
時代とともに変化したようですが、今では大麦7,000粒の重さが1ポンド (lb) だそうです。その重さの麦 (普通は小麦だよね?) を製粉して…焼いたパンが、人間が1日に食べる分量だとか。知らんけど…。
イギリスの通貨のポンドも、大麦7,000粒分の重さの銀の価値を1ポンド (£) としたそうな。
『だったら “ #200 ” じゃなくて “200lb” って書けばいいじゃん?』って思った方もいらっしゃるかもしれませんが、もう少し待っててください。
先に『ポンド』の解説を済ませちゃいますから…。
日本では、イギリスの “重さの単位” も “通貨” もカタカナ表記では『ポンド』と書きますが、実際の発音はパウンド…らしいですね。
で、アメリカの重さの単位だと素直に『パウンド』って書きますね。よく、ボクシングとか格闘技の選手紹介でアナウンスされる時の読み方も “パウンド” す。
『パウンドケーキ』も1パウンド (lb) の材料で作るケーキって意味だそうです。
なぜイギリスの重さの単位『lb』と通貨『£』の表記や読み方が…本来の発音を表すパウンドでなく、ポンドになっているのでしょうか?
これは英語より先にオランダ語として日本に伝わったから…ということらしいです。
オランダ語の発音がポンドだったので、イギリスのパウンドもポンドにしちゃえ…ということだったようです。
さて、では『#』のハナシに移りましょうか。
『#』のハナシ
# ←コレ、なんて読みます?
強いて言うなら『ハッシュマーク』ですね。
ハッシュマークでタグ付けする…っていう行為が “ハッシュタグ” なわけで、『#』はあくまでもハッシュマーク。
ハッシュは切り刻むっていう意味。ハッシュドビーフも “牛刻み肉のデミグラスソース煮込み料理” ですよね。
タテタテヨコヨコっていう線が、まるで何かを切り刻むさまのように見えて…このマークをハッシュマークと呼んだのでしょう。知らんけど。
で、このマークのことをほとんどの日本人が “シャープ” と呼びます。
実際には『♯』←コレが音楽記号のシャープです。
でも、便宜上『#』←コレもシャープと呼んでます。
スポーツ系の報道業界では、背番号を表す『ナンバー記号』として使いますね。
#10と書いてあれば『背番号10の選手』という意味。
一般の人なら『No.』とか『№』という記号で書きますが、スポーツ報道ではそれらと同じ意味で『#』を使いますね。
電話 (プッシュ式固定電話←これももう死語なのかな?) や携帯電話にも『#』のキーがありますね。
ぜひ、『パウンドキー』や『パウンドサイン』で検索してみてください。
このパウンドは、重さの方のポンドのこと。
『lb』の手書き文字に、記号であることを示す横棒を書き入れたものが、形が省略されて『#』になったんだとか。
つまり、『#』=『lb』なんですよ。
つまり『#』は “ポンド” なんですよ。
つまり『#200』は “200ポンド” なんですよ。
だから『#200』は “200听” でもあるんです。
『200听』は『にひゃくポンド』とも読むし『にひゃっきん』とも読めるんです。
この “正解” 、紙業界や画材業界の中で知ってる人は超々々々少数のはず。
まあ、美術の先生達がそれを知っても…何の得にもならないでしょうが、ウンチクだのマメ知識なので “楽しみ” って、そういうトコロですから… (笑)
【第15回終わり】