キャンバスのサイズ
と、真面目な読者様からさっそくお叱りの声が…。
ええ、知りたいのはサイズのコトですよね。
でもね、そんなハナシを最初にしちゃったら、それ以降のナハシはみなさん読まないでしょ?
ですので、キャンバスのサイズのハナシなんかは後回しです。
もっともっと知っておいて欲しいことがあるんですよ!
美大・芸大では教えてくれないようなコトで!
英語vs.フランス語みたいな、つまり微妙な表記の違いってだけで、どちらも同じ物を指す言葉なんだろうと思ってました』
って声も寄せられましたもん。
製菓材料の『アーモンドパウダー (英) 』と『アマンドプードル (仏) 』は同じ物を指す言葉ですから、そんな感じで誤解なさってた先生がいらっしゃるのも当然です。
3ダースが通ってた大学では、『経済産業史』っていう科目の一番最初の授業で麻のことを習いましたよ。
だから3ダースは18歳の春の時点で、大麻・苧麻・亜麻・黄麻が全然異なる植物だ…って事を知ってました。
それにカットキャンバスを切り出す寸法の目安!
あれ、役に立ちそうでしょ?
あんなことを明確に示したマニュアル、今まで見たことありましたか?
※ 手張り用の木枠 (マルオカ工業製) を基準にしております。それ以外の木枠に張る場合は、当然寸法の補正が必要です。
また、あの “カットキャンバスを切り出す寸法の目安” の文章を読めば、『なるほど、キャンバスの木枠って…サイズの大きさによって厚みが変わるのか! つまり、【4号より下】【4~20号】【25~60号】【80~130号】【130号より上】って、木枠には5段階の厚みが存在するのか!』っていう風に、勘の良い先生だったら気付いてくれたはず。
みなさんも、気付いてくれましたよね?
読み流しちゃったから気付かなかった?
う~ん、気付いてほしかったなぁ。
3ダースメルマガの中には…みなさんにとってそれほど役立たない情報も (時には) あるでしょうが、画材マニアが泣いて喜ぶようなウンチクや豆知識満載の文章を書くよう…心掛けております。
では、今回の話題はキャンバスの『手張り』についてです。
『手張り』キャンバスとは?
最初に結論を申し上げます。
もちろん、大宮光陵さんや芸術総合さん、伊奈学園さん、越生高校さんのような学校の生徒さんなら、張るべきでしょう。キャンバス張りが苦手な生徒さんも、頑張って…コツを覚えてどんどん張ってください。
自分で手張りしたキャンバスには愛着が湧きますし…ね。
でも、芸術系の学校以外の…いわゆる一般校の生徒さんに張らせるのは、正直言って賛成できません。
その時間を使って、1枚でも多く絵を描いてくださいよ。クロッキーでもデッサンでもいいから…。
その方が、はるかにその生徒さんのためになるんですから!
あ、いつも…か
でも特に今回は、先生方の反感を買いそう…
手張りするメリットなんか有りますか?
ひょっとしたら、先生方の自己満足ってことだけじゃありませんか?
当然、先生方は正しい張り方をご存知だから…ご指導されてるんですよね?
その正しい張り方で張られたキャンバスは、まさか誰かに迷惑なんかかけてないですよね?
木枠の事や釘のこと…布のことやキャンバスプライヤー (張り器) のことも、
指導なさってる先生はもちろん熟知されてるんですよね?
でしたら、ここから先は読む必要はございません。今後とも正しいご指導で生徒さんに張らせてみてください。
逆に、少しでも知識や経験に自信が無い先生や、なぜ『張らせない方が良い』と3ダースが言うのか…その真意を聞きたいという先生は、引き続きお読みください。
学生さんに『張らせない方が良い』理由
木枠に張られた “枠張りキャンバス” には2種類あります。
一つは通称 “張りキャン” と呼ばれる『既製品』
学校での教材用に最も使われています。
工場で、専用の機械を使って張られています。
『機械製』で『大量生産』してる『レディメイド』商品…ってことですね。
もう一方は、誰かによって “手張り” されたキャンバス
これを我々は “張りキャン” とは呼びません。
『手張りキャンバス』とか『張り上げキャンバス』と…丁寧な呼び方をして区別しています。
そのほとんどは『画材店での手張り』で『少量生産』された『オーダーメイド』な商品だと思われます。
世の中に出回る枠張りキャンバスの99%以上が、既製品の『張りキャン』だと思われます。
99.9%以上かも知れませんし、99.99%以上かも知れません。 (3ダース個人の推測です)
一方、画家の先生からの注文で…120号を超える大サイズのキャンバスは、注文されるたびに私が手張りしております。
30年くらい前は…機械張りの『張りキャン』の製造リミットが60号まででしたので、
80号や100号も…すべて手張りで対応していました。
また、機械張りの既製品はFサイズしか作られていなかったため、PやMの注文にも…いちいち手張りで対応していました。
ただし大サイズはトラックをチャーター (1車貸切り) しての配送らしいので、送料はべらぼうにかかるでしょう。
学校教材に使われる『張りキャン』は、安くて軽い…という素晴らしいメリットがあります。
たるみやすいという欠点もありましたが、昔に比べてだいぶ改善されているように感じます。張り方も癖がなく均一です。画材店で店主 (職人) が張る『手張りキャンバス』は、機械製の張りキャンよりも張りが強く…枠も頑丈。
布の種類も好みで選べます。
しかし値段は張りキャンとは比べられないほど高く、木枠も重い。
こんな違いがありますね。
画家の先生やお客様の中には自分自身で手張りをする人もいます。そういう人はロールキャンバスと木枠を購入すれば良いので、画材店に張らせるよりは1枚あたりの単価は安く済みます。
学校で生徒さんが手張りするのも、それと同じ理由ですよね。
って声が聞こえて来そうですが、みなさん落ち着いて、落ち着いて。
自分で張れば安い…なんて、幻想です。
安くなるっていうのは、画材店に張り上げまで依頼するオーダーメイドの『手張りキャンバス』よりは安くなる…ってハナシ。当然です。
同サイズの教材用の『張りキャン』より安くなっちゃうわけではありませんよ。
これ、『油絵あるある』ですよ。
一番安いのは、メーカー製の既製品…すなわち機械製の『張りキャン』です。
自分で張れば安い…なんて、幻想です。
だって、手張りの材料を買うだけで… “張りキャン” よりも高くついちゃうんです!
ウチにも、木枠とカットキャンバスを買いたい…という学生さんが来ることが時々ありました (最近はめっきり来ませんが…) 。
店頭に置いてある機械製の “張りキャン” を手に持って
…みたいな感じで。
なら、ソレをそのままレジに持って来ればいいのに…。
そして…この子に説明してもたぶん理解してくれないだろうなぁって思いながら、とりあえず結論を先に言ってあげるのです。
そうです。
手張り用の木枠とカットキャンバスだけで、同じサイズの “張りキャン” より高くなっちゃうんです。
1.5倍は軽く超えます。
サイズによっては2倍近くになる場合もあります。
(なんで作ってあるのより、作る前の材料の方が高くなるんだよ…)って思ってるんでしょうね。
機械で張ってる “張りキャン” と、画材店の店頭で売っている “手張りキャンバス用の材料” とでは…、木枠の材質が全然違います。
まあ、コトバだけじゃほとんどの学生さんは信じてくれません。
と…。
こちらとしては、画材の正しい知識 (常識) をみんなに知ってほしいだけなんです。
では先生方にもご説明しますので、もう少しおつきあいください。
そもそも機械生産の “張りキャン” は、大量生産のためにコスト…すなわち人件費が安いんです。…っていうか、一番大変な “釘打ち作業” は機械にやらせてますから、その部分に人件費はかかってません。
つまり、『自分で張れば工賃が省けるから安くなる』…って言う、 “省けるほどの工賃=人件費” がかかってないんですよ、残念ながら。
それだけでなく、木枠の材質も…張りキャンの方は良くないモノを使っています。
昔風に言うと、工作用の “バルサ材” みたいな…。
白くて軽くて軟らかい『ファルカタ材』という木材を使っていますね。
別名『南洋桐』。
ちなみにファルカタ材は、国産の高級木材の『桐』とはまったくの別種です。
このように、“張りキャン” はあくまでも『学校教材レベル』のモノ。
当たり前ですが、永久不変の材質なんかは求められていません。
とは言え、なんでこんなに軽い…質の良くない木材を使ってるんでしょうか?
その本質は軽さにあり!
ちょっと想像してみてください。
例えばF8の “張りキャン” が50枚入った段ボール箱を何箱も学校の美術室 (3階とか、ヘタすると5階) に運ぶことを…。
めちゃくちゃ大変だと思いません?
重労働ですよ。
少しでも軽い方がありがたいですよねぇ?
その画材屋が商品を仕入れているわけですから、当然 “軽い張りキャン” を作ってくれるメーカーから仕入れるようになるわけです。
重い張りキャンしか作れないメーカーは、画材屋からソッポを向かれちゃうんです。
こうして、各メーカーが真剣に機械化・省力化・軽量化に取り組むようになり、めちゃめちゃ軽くて安い張りキャンが完成していった…というわけです。
未来永劫、変わらないであろうもの
一方…昔から、手張りキャンバス用の木枠は、硬くてしっかりした木材を使っています。
将来的にもこの部分での省力化だの軽量化だのは有り得ません。未来永劫、硬くてしっかりした木材を使うことでしょう。
この…手張り用の木枠には、昔は国産のネズコという木を使っていたようです (『鬼滅の刃』の登場人物とは関係ありません) 。
今はネズコに性質のよく似たベイスギ (ウェスタンレッドシダー) という輸入材を使うのが主流です。
この木は…赤茶色くて、ファルカタ材と比べたらはるかに重く、頑丈で反りにくい木です。
当然、値段もそれなりにします。
また、手張り用の布…すなわちカットキャンバスは、ロールキャンバスからそのつど切り出さないと用意出来ません。
わざわざ床にロールを拡げて、定規で測って鉛筆で線を引いて、ハサミで切って…と、けっこうな手間がかかります。
それに、サイズによってはいちじるしくロス (無駄) が出るため、カットキャンバスの値段っていうものは…えらく割高に設定されているんです。
(手張り用の布がたくさん欲しいのなら、お店にカットさせずにロールのまま買っちゃう方がお客さんにとっては断然お得)
そういうわけで…手張り用の材料を店頭で集めただけで、『出来上がってる張りキャン』よりも…はるかに高くなってしまうのです。
お店に来る学生さん達には…手張り用の赤茶色い木枠をお見せし、重さを実感していただき、その木枠の定価表もお見せし、張りキャン1枚の値段より木枠単品の方が全然高いことをご納得いただいて、“最も安い” 張りキャンをお買い上げいただくようにしていました。
『張りキャン』と『手張りキャンバス』の違い…、みなさんもご理解いただけたでしょうか?
私たちは部費でロールキャンバスを買って自分達で切り出してるんだから、3ダースさんのお店からカットキャンバスなんか買いませんし、木枠だって剥がして何回も何回も何回も何回も使えるんですから、張りキャン買うより全然安くなるんです!
前に3ダースさんから張りキャンの値段を聞いて、自分で計算したんですから!!!!』
って声が聞こえて来そうな所ですが、長くなりましたので次週に続きます。
【第21回終わり】
』