何度でも言わせていただきます!
超辛口だった第21回でも申しましたが、あえて蒸し返します。
一般校において生徒さんにキャンバスを手張りさせるメリットって、有るんでしょうか?
3ダースには、時間の無駄にしか見えないのです。
って思われた先生は、
ぜひ、正しい張り方を生徒さんに教え続けてください。
他の先生方はもう少しお付き合いください。
約10年くらい前のハナシ
コロナ前…いや、もう10年くらい前のハナシですが…よく学校の放課後の時間に品物の納品にうかがうと、美術部の活動時間にぶつかります。
そこで、古いキャンバスを剥がした木枠を再利用して…新しいキャンバスを生徒さんが張る、という場面に遭遇したりします。
いやぁ、もう見てられません!!
ちゃんとした油絵科卒の先生が指導しているはずなのに、ダメなことばっかり!
まず、木枠がダメ!
コレ、強度的にアウト。
手張りするならベイスギ木枠の一択ですよ。
他に選択肢なんかありません。そう習わなかったんですか?
大学の教授ってバカばっかりなんですか?
ファルカタ材は一回使われたらもうダメ。これが我々業界人の常識です。
っていうか、ファルカタ材はそもそも手張りを想定した木材じゃないんですよ。ご存知無かったかしら?
機械で…布を全体的に伸ばし、釘打ち機で一斉に釘を打つ…という工程のための木材。
みなさんが手張りで使うキャンバスプライヤー (キャンバス張り器) の引っ張りに対する剛性・対摩耗性なんかは備わってません。
プライヤーで1ヶ所1ヶ所…そのつど強力な力が木枠に加わる、人の手による “手張り作業” なんかには耐えられないんです。
少し考えればわかることだと思います。なぜ画材屋の店頭で売られている手張り用の木枠があんなに頑丈で重いのか…。
それは、手張りに適した木枠はベイスギだけだから…なのです。
前にも書きましたが、将来的にもこの手張り用の木枠で軽量化とかは有り得ません。未来永劫、硬くてしっかりした木材を使うのです。
でも、先生方はそんなことお構い無し。そもそも木枠の違いすら理解してらっしゃらないのかも…。
とおっしゃる先生もいたくらいです。
こういう学校で新たに張られるキャンバスは、硬くてしっかりしたベイスギ木枠が美術室に有るにも関わらず…白い木枠ばっかりが使われてます。
次に釘がダメ!
張りキャンから布を剥がした時に抜いた、『頭のまん丸な釘』をけっこう再利用してますね。
よく見てくださいよ。
それ、似てますけど…キャンバスの手張りに使う『キャンバスタックス』ではないんですよ。
手張りで使う “本物の” キャンバスタックスは、釘の頭が『いびつな楕円形』。
機械製の張りキャンの釘の頭は『まん丸』なのです。
ね、全然ちがうんですよ。こういうことって、大学の油絵科では習わないんですかねぇ?
って、先生は平気でおっしゃいます。
って突っ込み入れたくなりますが、そこはグッと抑えましたよ。
釘の頭の “形” だけじゃありません。頭の『厚み』も違います。
機械製の張りキャンの釘の頭は極薄。
手張り用のキャンバスタックスの頭はけっこうぶ厚い…。
このあたりの違いを油絵科卒の先生方にぶつけてみても、まともに答えられる人はいませんでしたよ。一人も…。
片方のは、ちゃんとわかるんですよ。いびつな楕円でぶ厚い頭の釘は『キャンバスタックス!』。
みなさんそう答えてくれますね。ええ、それで正解です。おめでとうございます!
キャンバスを手張りするための専用の釘。手張りをするなら、必ずコレを使わなきゃダメなんです。
知ってますよね? 習いましたよね?
鉄製ですが、意外に軟らかいのも特徴。
そして…釘というよりクサビのような形なので、軽い力で打ち込めて、抜く時も抜きやすい。
さらに…先端は異常なほど尖ってます。
これは短いキャンバスタックスをトンカチで打ち込む際に、指を添えなくて良いように…ってことなのでしょう。
右利きの人なら左手でキャンバスプライヤーを掴んで布を引きながら右手でトンカチを操ると思いますが、トンカチを握りながら右手の指先で…キャンバスタックスを打ち込みたい場所にグッと突き刺せば、タックスは簡単に “突っ立ってくれる” んです。わざわざ指とかで支える必要はありません。あとはトンカチで叩くだけ。
あ、ちなみにキャンバスタックスを抜くのに『キャンバス釘抜き』っていう商品を使ってる人が多いと思いますが、あれ…ほとんど役に立たないですね。使いづらいだけですよ。
ウチで手張り作業をする時に…釘を抜くのに使っているのは細いマイナスドライバーです。
機械製の張りキャンに使われる『謎の釘』とは…
さて一方の、なんだかよくわからない機械製の張りキャンに使われる『謎の釘』…。
頭がまん丸で極薄。
本体もクサビ状ではなく、まさに “普通の釘” のようなカタチ。
しかも、すっごく硬い!
キャンバスタックスとは比べものにならないくらい硬いんです。
コレはいったい、なんなんでしょう?
木工用の釘!
DIYや、技術家庭の授業でみなさんも使ったでしょう?
釘の…すご~く短いヤツ。
これ、ちょっと考えたらわかること…。
機械製の張りキャンは釘を打つのも機械。『釘打ち機』っていう機械を使います。空気圧で、次々に釘を打ち出すんです…。
この機械に “装填” するには、形がいびつなキャンバスタックスではダメなんです。形が不揃いだから正しく釘の通路を通れないんです。
おそらく釘打ち機には…もう少し長い釘も装填出来るんでしょうが、キャンバスタックスっぽく見せるためにキャンバスタックスに近い長さの木工釘を…張りキャンメーカーが選んでるんだと思います。
だから、そういう事情をご存知無い生徒さんは、張りキャンの木枠から抜いた木工釘と手張り用のキャンバスタックスとを “分別出来ずに” 後生大事にとっておくんでしょう。
あの短い木工釘、あれは釘打ち機だから打てるんです。
普通に手で、トンカチで打ち込むには非っ常~に打ちにくい!
打てはしますよ。
不可能…ではありません。
でも、片手にキャンバスプライヤーを掴んで布を引っ張りながら釘を打つ… “本来の張り方” をしている人には使いづらい釘でしょうね。
だって、キャンバスタックスのように簡単には突っ立ってくれないんですから…。
よく、生徒さんが二人がかりで1枚のキャンバスを張ってる場面を見かけますが、おそらくこの子達が使ってるのはキャンバスタックスではなく…張りキャンから抜いた釘なのでしょう。
自力で突っ立ってくれない釘を打つには、トンカチを握る手とは反対の手の指で釘を支えなければなりませんよね?
かといってプライヤーは放せません。
だから別な生徒さんに『釘打ち係』を引き受けていただかないと張れないんでしょう。
片手で打てない釘なんか、手張りに使えるワケないでしょ?
少し考えたらわかるはず!
しかも “釘打ち係” の子が、短い釘に指を添えて…釘を支えながらトンカチを振り下ろすんですよ?
うわぁ、指を叩いちゃいそう!
これ、二人羽織の芸ですか?
余興の出し物ですか?
もう、見てられませんよ!
この、変な二人羽織でキャンバスを張らせてる学校は、もう手張りはやめるべき時期です。
とにかく間違ってるんです、やり方が。
あれもこれも! すべてが!!!
あと…張りキャンから抜いた短い木工釘を、“釘打ち係” の子がおっかなびっくりトンカチで打って…斜めに釘が入っちゃうことって有りますよね?
それが “本物の” キャンバスタックスだったなら、仮に斜めに刺さってしまっても釘本体が軟らかいので、頭はなんとか平らに収まるんですよ…、うまいこと。
でも、めちゃめちゃ硬い木工釘は…斜めに刺さったらもう最後。頭も斜めのまま布と木枠とに突き刺さります。
薄い板状の頭が斜めに布に刺さるわけですから、布を簡単に切り裂いて突き破り、半円形の穴を開けてしまいます。こうなると、もはや布を固定することなんかできません。
あ~あ、やっちゃった…
しかも、この木工釘はめちゃめちゃ抜きにくいんです。
そもそも抜くことを想定してないから頭が薄く、釘抜きやマイナスドライバーにはうまく頭が引っ掛かってくれません。
また、ご丁寧に…釘の胴体には “抜け防止の横スジ” が付けてあります。
これじゃあ簡単に抜けませんよ!
本来…キャンバスを張る時に使う釘は、もし張りじわが出たりゆるみやたるみが生じたら…いつでも張り直しが出来るよう、打ちやすく抜きやすいキャンバスタックスを使うのが常識です。
そういうふうに習ってますよね?
そういうふうにご指導されてますよね?
わざわざ抜きにくい釘を使う…っていう選択肢なんか有りませんよね?
キャンバスタックスと木工釘の分別すら出来ないのなら、手張りの指導はあきらめてもらった方がいいと思います。
繰り返し言います。
張りキャンに使われていた白い木枠は再利用できません!
張りキャンのまん丸の釘も再利用できません!
みなさん耳が痛いかもしれませんが、この話題はまだ続けます。
【第24回終わり】
私達が張ったキャンバスが他人に迷惑をかけるなんて有り得ません!
木枠や釘は何度でも使えるって事は知ってますし、張り器も複数揃えてあります!
3ダースさんは安いロールキャンバスを納品してくれさえすればいいんです!
画材屋さんにアレコレ言われる筋合いなんかありません!
どうせ高い木枠を売り付けたいだけですよねっ!?』