耳を切ってください…のハナシ
あ、みなさんに『ゴッホになってください』ってお願いしてるわけではありませんよ。
それに、耳を切ったところでゴッホになれるワケでもありませんし…。
ちょっと漢字で書くと意味を取り違えられそうですから、ここからは平仮名で『みみ』と書きます。
手張りキャンバスの、木枠より後ろにはみ出した…キャンバス布の余分な部分を “みみ” と呼びます。
パンの『みみ』と同様、“端っこ” とか “周縁 (しゅうえん) ” という意味から来ているのでしょう。
カステラや羊羹を切り揃える時に、断ち落とされた端っこも “みみ” って呼びますよね。
手張りをしている学校のうちの…何校かのキャンバスの裏の “みみ” が異っ常~に長いんです!
10センチ以上も、木枠の裏面より後ろにはみ出してるんです
こんな長いの、昔は有り得なかった!
なんでこんなに “みみ” を長くしてるの?
逆に張りづらいでしょうに!
これ、最初は原因がわからなかったんです。
ロールキャンバスから切り出した時の、単なる寸法間違いだろう…くらいに思ってました。
でも、こんなに長くちゃキャンバスプライヤーで布をくわえる時に、絶対くわえづらいじゃん?
切り出した時に間違えて大きく切っちゃったんだとしても、張る前に適正な大きさに切り直せばいいだけなのに…なぜかデカイまま張ってるんです。
おそらく、顧問の先生がキャンバスの張り方をそもそもご存知無いのか、あるいは先生は完全に部活を放任していて…生徒さん達が先輩から間違った張り方を教わったため、こうなったのか。
ロールキャンバスだって、本来の寸法より異常に大きく切り出されてるのなら…消費も早くなるからもったいないと思いますよ。
部活を放任しないで、きちんと指導してください!
前にも書きましたが、手張りするためのカットキャンバスの寸法は…
4~20号までのサイズは木枠寸法+65㎜、
25~60号は+80㎜、
80~130号は+95㎜、
それ以上の大きさは+110㎜を目安に切り出す。
と良いだろうと3ダースは思っておるのですが…
この数値を × 2にしてプラスするんじゃないですからね。
木枠寸法に、単純にこの数値をプラスするだけですよ。
まぁ、キャンバス張りに慣れていなくて…ちゃんとプライヤーでつかめるか心細いような生徒さんなら、あと10㎜くらい大きく切り出してもいいでしょうが、それ以上大きくしちゃったら張りづらくなるだけです。
それにしても、木枠の裏面より10センチもはみ出るなんて、何の数値を根拠に切り出してるの?
『よその学校の手張りキャンバス』と比べて、あきらかに『変』なんですよ。
どれくらい変かっていうと『制服のズボンの裾が他の生徒さんの裾より80センチくらい長くて、爪先も踵もズボンに覆われ…その裾をズルズル引きずって廊下を歩いてる姿』ってくらい変。
(この意味がわからない若い先生は『長袴 (ながばかま) 』『長裃 (ながかみしも) 』『長直垂 (ながひたたれ) 』などのキーワードで画像検索してみてください。その画像にあるくらい長い裾のズボンの生徒さんが校内に居たら、異様でしょ?)
最近その “あきらかに異常な長過ぎるみみ” の謎は、ほぼ解けました。
謎が解けた理由
たぶんキャンバスプライヤーが滑るんでしょうね。布がしっかりつかめないんでしょう。
だから、キャンバスプライヤーが滑るのを嫌がって、布を二つ折りにしてくわえているのでしょう。
くわえる部分が2枚重ねになれば、それだけ厚みも抵抗も増えますからね。
その結果、みみが異常な長さで残されてしまうんでしょう。
でもそのやり方、根本の解決にはなりませんよね。
“みみ二つ折り” で張っている先生方、よく聞いてください。
みみを二つ折りにして張るのは間違った張り方です!!!
実際、よその学校はそんなことしなくても、同じ布でちゃんと張れてます!
つまり、プライヤーが滑りやすいのであれば…その問題点を解決しない限り、いつまでも間違った張り方を続けることになります。
あるいは生徒さんの握力不足か、プライヤーの使い方の間違い。
プライヤーのくわえる部分のギザギザに、キャンバスの地塗り塗料のカスが詰まって抵抗が減っているのかもしれません。あるいは金属が磨耗しているために滑るのかもしれません。
カスが詰まっているなら掃除しましょうよ。磨耗してるなら買い換えましょうよ。
ただ、それだけのこと。
昔に比べて現代のキャンバス布は滑りやすい
でもね、たしかに昔に比べて現代のキャンバス布は滑りやすいんです。それは事実です。
美大や芸大の教授って、こういうことわかってるのかなぁ。
たぶん知らないんじゃないかなぁ?
教授がちゃんと知ってたら、みなさんも大学で教わってるはずですもんね。
前にも書きましたが亜麻の布はかつてはヨーロッパ (ベルギーやフランスや北アイルランドなど) で織られていました。
これらの産地では、とても古い機械で布が織られていたんです。
それは力織機 (りきしょっき) という、産業革命の頃からほとんど構造が変わっていない機械です。
しかし、どの産地も機械の老朽化に伴い、新しい機械に更新されて行きました。
現在、多くの繊維は中国で織られています。中国で使われている織機は、力織機から数えると何世代も新しい『レピア織機』というものだそうです。
力織機などは、縦糸の間をシャトル (日本語で言うと杼 = ひ) という舟のような形をしたものが左右に行ったり来たりして横糸を通していました。
昔話に出てくる機織り機 (はたおりき) も、力織機も…基本構造は同じ。
しかし、レピア織機にはシャトルが無いそうです。ですので、どうやって織られているのか…3ダースには理解できません。
説明文を読んでも、『シャトルレス』って事くらいしかわかりません。謎の機械です。
そして、このレピア織機で織られた布は…仕上がりがとてもキレイで平滑なんです。
布が平滑なんですから、滑りやすいのはしょうがない。でも、だからって二つ折りにして張るのは正しい張り方ではないんですよ。
滑って張れないのなら、道具かダメなのか…道具の使い方が間違ってるのか…握力が足りないのか…のどれかです。
その原因を解決するつもりがないのなら、手張りはあきらめましょう。
どうしても手張りをしたいのなら、張り器を買い換えて…握力を鍛えましょうよ。
これは、そんなに難しいハナシじゃないはずですから…。
でもまぁ…みみを無駄に長くとって、二つ折りにして張ったにせよ、張り終わったならば…その裏に残された “長過ぎるみみ” はどうにか始末していただきたい。
そこをちゃんと考えてらっしゃる先生はいらっしゃいますか?
たぶんいらっしゃらないから長いみみのキャンバスが高美展などに出品されるんでしょうね。
ハッキリ言います。
みみ、切ってください!!!!!!!
この話題、続きます。
【第27回終わり】
みなさん、みみが長過ぎます!!!!!!!!!!!!