仮縁と本縁のハナシ
キャンバスのみみのハナシは次回以降に回します。今回は仮縁 (かりぶち) と本縁 (ほんぶち) のハナシです。
仮縁、ご存じですよね?
仮額 (かりがく) とか仮額縁とも呼びます。
公募展や高美展、学校の文化祭などの展示に使われる、“簡易な額縁” のことです。
なぜ『仮』なのか?…というと、『本縁 (ほんぶち) 』 (本額とも呼びます) に対して “仮の額縁” とか “一時的な額縁” という意味で『仮』の字が使われるのでしょう。
『本縁(ほんぶち)』(本額)の説明
一方の本縁とは、本格的な額縁のこと…。
中の絵を交換して使い回すことも有り得ますが、基本的には中に入れる作品のために最も似合う額縁を選んで購入するはずですから、作品の入れ替えをせずに永続的に飾られる事の方が多いです。
本縁は…主に木製で、金箔や銀箔を貼って仕上げられています。また、塗装による仕上げのものも有ります。
(多数派ではありませんが、金属製や樹脂製の本縁も存在します)
本縁は、工場において棒状の木材を4辺組み上げてから彫刻などを施し、その表面を石膏のような…胡粉のようなドロッとしたもので塗り固め (ジェッソとモデリングペーストを混ぜたような物って言えばイメージしやすいでしょうか…?) 、それからその表面を削ったり磨いたりした後で下地の塗装を施し、箔を貼ったりニスを塗ったりしてフレームに仕上げます。
ですから、本縁というものは…フレームのコーナーに45°の “合わせ目の線” が見えないのが普通です。
(一部、木材の地肌を見せる仕上げの額は合わせ目がうっすら見えるものもありますが、組立ててから塗装をしているので合わせ目はそんなに目立ちません)
中には…木材を四角く組まずに、長い角材の状態のままで表面の面取りや彫刻・石膏塗り・塗装・箔貼り・ニス塗りを済ませて仕上げた3mくらいの部材を、工房にて注文に応じて指定の長さに45°で切ってから組立ててフレームを作る…という別な製法の額縁もありますが、そういう特寸対応の製法ではない… “既製品の本縁” は、コーナーの合わせ目が目立ちません。
また、本縁にはガラスや透明アクリル板が入ります。
(2011年以降、額縁メーカーはガラスの使用を控え、ほぼすべての額縁にアクリル板が標準装備されるようになりました)
あまり大きなサイズの額縁だとアクリル板をはめない場合もありますが、基本的にはアクリル入りが標準仕様です。
そのため本縁には、フレームの内側にマット (ライナーマットとも呼びます) という部材が使われます。マットとは、表面に麻の布などが貼られ…作品とのキワに金のラインが入っている細めな枠のことです。
これはフレームの “枠” の内側にもう一つの細いマットの “枠” が入れ子の様に入り込む構造で、その外枠であるフレームと内枠であるマットの間の隙間でアクリル板をホールドする…という構造になっているわけです。
そして本縁には裏板が付きます。
大サイズだと裏板が付かない場合もありますが、たいていは標準装備されています。
裏板も含め、フレームの裏側は深緑色の紙が貼られて化粧されていることが多いです。
本縁の箱とは
本縁には箱も必須です。通常は段ボール製の簡単な箱が付属します。
額縁が収まる “箱の本体” と、それにかぶさる “箱の蓋” と…。このような、ごく普通の箱の事を “重ね箱” とか “上下箱” と呼びます。
ちょっと高級な本縁になると、箱の形状が変わって来ます。“差し箱” とか、“タトウ箱” という箱になります。
差し箱は…素材は段ボールですが、重ね箱とは異なり…箱の短辺の片側が蓋となって開き、文化鋲 (通称グルグル) という部材で蓋が開かないように閉じられています。
文化鋲とは、赤茶色の円盤型の鋲と、タコ糸の付いた鋲の組み合わせで…タコ糸を円盤にグルグル巻き付けて使うものです。ご興味のある方は、画像検索してみてください。
タトウ箱は…正しくは『畳箱』と書きますが、誰も正しく読めませんからカタカナで書くのが一般的です。多当箱とか多倒箱とも書きますが、これらは当て字でしょう。
タトウ箱は、段ボール製ではなく布で化粧された箱です。
芯は硬いボール紙や薄いベニヤ板が使われますが、箱全体を紙で覆った後…布と仕上げの紙で化粧します。化粧には紺の布+黄土色のクラフト紙が使われる事が多いです。
タトウ箱の蓋は…差し箱同様短辺の片側が開きますが、グルグルではなく小鉤 (こはぜ) という爪状の留め具で蓋が開かないように閉じられます。
差し箱とタトウ箱には、黄袋 (きぶくろ) という布製の袋も付属して来ます。普通の本縁ならビニール袋入りですが、高級な本縁は黄袋入りなのです。
これは、現在は化学染料を使うので効果はありませんが、かつてはウコン染めの布を使っていて…防虫効果があったそうな。
以上が本縁の特徴です。
『仮縁(かりぶち)』の説明
一方の仮縁には、普通はアクリル板も裏板も付きません。
組み立てた状態で入れられる “箱” も付きません。
そのかわり、組立式ですから分解も簡単なので、収納に場所をとりません。
作品を入れ替える “使い回し” も自由に出来ます。
それが『仮縁』です。
仮縁は、金属製が主流ですが…木製の仮縁も存在します。
また、板を直接釘で作品に打ち付けたりネジ止めしたりして “手作り” している学校も多いです。
ウチでオススメしている仮縁は、㈱オリジンさんの『アルフレーム仮縁』。最もオススメはCDシリーズという、幅30㎜のもの。
『CD56』や『CD22』、『CD88』『CD33』『CD77』など。
フレームのコーナーがしっかり組めて、頑丈です。作品の固定も専用の留め具で簡単。
フレームの裏から作品をはめ込む方式なので、フレームを分解せずに作品の入れ替えが可能です。
大宮光陵さんや芸術総合さんのような芸術系の学校でも良く使われています。
『オリジン アルフレーム』で検索していただければカタログが見れると思います。『仮縁・大型縁』というページをご覧ください。
実物が見たいという先生には、サンプルをお見せすることも可能ですので、ご遠慮なくおっしゃってください。
もっとも、CDシリーズは頑丈な分ちょっとお値段も高いので、同社の商品でもう少しリーズナブルな仮縁もあわせてご紹介します。
『C‐40』がオススメです。
こちらはフレーム各辺に3個のネジ穴が空いている『横ビス方式』です。
(25号以下は専用の金具で作品裏面を固定する方式になりますので、小サイズのフレーム側面にはネジ穴は有りません)
フレームのコーナーの固定がそれほど頑丈ではないので、作品を外したらフレームも分解していただくようになります。
(組んだまま…絵を外した “フレームのみ” の状態で置いておくと、ひしゃげてしまう恐れがあります)
でも、正面から見た幅は22㎜もありますし、ウッディダーク (焦げ茶の木目) やウッディナチュラル (黄土色の木目) は存在感も有り…作品にも合わせやすく、大変人気があります。
金 (ゴールド) や銀 (ステン) はアルミ地金にメッキしたものなので…キズが付くとキズの修復は不可能なのですが、木目仕上げのフレームは…アルミ地金の上に樹脂製の木目シートが貼り付けてあり、万一木目シートにキズが付いてもアクリルガッシュなどでほぼ修復が可能です。
乱暴に使わなければ5年経っても “新品同様” に使えます (もちろん普段のメンテナンスは必要ですし、ネジやコーナー金具のスペアは充分確保していただきたいものですが…) 。
コーナー金具などのパーツは取り寄せ可能です。常に “予備” がお手元にご準備されている状態にしておいてください。
『アルフレーム仮縁』でしたら、教材カタログのショボい仮縁より値引き率を大きくして納品可能です。
しかも、CDシリーズは当店で組み立てて納品いたします。
オリジンさん以外の…どこのメーカー製かが不明な金属製の仮縁をお使いの学校さんの…交換部品のお取り寄せにはお応えできないのが現状です。
ウチで納品した商品で、納品時期も特定出来ている物なら調査はいたしますが、あまりに古い商品だと製造元が廃業している可能性もありますし…。
『横ビス方式』の仮縁の付属品である… “木ネジ” の予備用の補充に関しては、仮縁メーカーから取り寄せるのではコストがかかり過ぎますのでおすすめしません。
木ネジのみならホームセンターで直接購入される方がはるかにお安いでしょう。
ホームセンターでネジを購入される場合は、フレームに付属していた正規のネジを1本ご持参していただき、店員さんに同じネジを探してもらうのが得策です。
十数本程度の小袋なら150円程度で買えますし、100本くらい入った箱入り (あるいは大きめな袋入り) も、小袋を数個まとめた程度の値段で買えるはずです。
まとめ買いの方が間違いなくオススメです。
次回は仮縁のハナシをもう少し深く…。
【第28回終わり】
前にも申しましたが、教材カタログに載っている商品は必ずしも品質や評判の良い物を選んで載せているのではなく、教材としての最低限の体裁を保った既製品を載せているだけなのです。