断裁料はタダではない理由
紙を断裁機で断裁する場面、ご覧になったことありますか?
YouTubeでもいろんな印刷工場などの動画で、断裁の場面が見られます。
私は美術用紙専門の紙問屋さんの倉庫で、断裁の作業シーンを何度も見ています。
でも安全面ではしっかり考慮されていますよ。
オペレーターさんが万が一にも手を挟まれないように、作業テーブル手前の下部の “両側” にスイッチがあって、両手で同時に押すことで刃が降りてくる…という仕組み。
こういう機械って、『バサッ』とか『ザクッ』っていう音がしそうですが、驚くほど静か。
まるでSF映画かアニメなどで、“宇宙空間でレーザー銃を撃つ時の効果音” のような『ティュゥゥン』っていう音で紙が切られます。
巨大なビーム砲や波動砲ではなく、小型の銃の音ですよ。
で、前にも言いましたがこの断裁機…0.01㎜の精度で断裁位置の調整ができるんです。
紙問屋さんでは、製紙工場から紙が入荷してくる時はほぼすべての紙が四六判の大きさなのですが、画材問屋や画材店からの注文に応じ、その2切や4切や8切…あるいはJISの仕上がり規格に合わせて断裁し、梱包し…出荷してくれます。
だから、刃もけっこうな頻度で研ぎ直したり新しい刃に買い換えたりします。
これは当然です!
しかし、慣例として四六判の半分 (2切) とその半分 (4切) 、さらにその半分 (8切) に関しては無料で切ってくれるんです。
紙問屋サマサマですよ。
足を向けては寝られません。
もちろん、画用紙も…B本判の半分 (2切) 、その半分 (4切) 、さらにその半分 (8切) に切るのも同様に無料です。
しかも、オペレーターさんの美意識次第…ではありますが、キレイに化粧断ちをしてくれたりもします。
美術用紙として出回るケント紙や画用紙は…あくまでも “素材” なわけですから、流通するときの形態は…原紙寸法そのまま (通称・全判) か、原紙寸法からの単純な断裁が基本となります。
実際、画用紙やケント紙と言えば『全判』とか『4切』とかですわ。
もう昔っから、これは常識ですよね。
一方、A列とかB列のJISの仕上がり規格に切り揃えるには、厳密な採寸と正確な断裁が必要になります。
製品としての仕上げ断裁をするわけですから、1㎜以下のズレも無いよう、慎重な作業になります。
だから、当然断裁料金を請求されるんです。
無料で切ってもらえるのは学生さんの特権
前にも言いましたが、画用紙と違って…ケント紙はけっこう印刷用紙としても使われています。
印刷工場に送られたケント紙は、印刷されて…規格の大きさや名刺のカタチに断裁されて、世の中に出ていきます。
印刷されていないケント紙を “素材” として使う人達は、かつてはプロのデザイナーやイラストレーター、漫画家、そして設計士などの “製図屋さん” 、さらには印刷の『版』の土台を作る “版下屋さん” といった職人系のプロがたくさんいました。
今でも『ケント紙』を使ってるのは漫画家くらいなのかしら?
いや、漫画家でさえケント紙を使う人はだいぶ減ったでしょう。
そう。
つまり、画用紙とか…印刷されていないケント紙とかを使うのは、今では学生さんのみ…って断言しちゃってもよいでしょうね。
みんなで紙問屋さんに感謝しましょうね。
四六判もB本判も…2切にすると、JIS規格のB2より少し大きいサイズになります。
4切は、B3より少し大きいサイズ。
そして8切はB4より少し大きいサイズ…ってことになります。
この、規格サイズより少し大きい紙を見て…多くの美術の先生は、『パネルに水張りする用に、わざわざ大きく作ってくれている』って思ってらっしゃるようですが、わざわざ水張り用に作ってるんじゃないんです。すみません
そもそもの原紙寸法がB1規格よりひとまわり大きいんだから、半分にしてもその半分にしても、JISの仕上がり規格よりいくらか大きいっていう…ただそれだけのことなんです。
まあ、確かに4切はB3パネルの水張りにちょうど良さそうな大きさですが、縦横の “余分の幅” は完全に同一ではないですよね?
特に、画用紙の4切は片側の余分の幅は少なめです。
また、ケント紙も画用紙も…2切は長辺の方を切り詰めないとB2パネルに水張りできませんし…。
そういうもんなんです。
そこらへんはご了承ください。
さて、四六判のケント紙を…仮にJIS規格のB3に切り揃えたとしましょう。
この場合、前述の通り断裁料金が加算されちゃいます。
学生さんが使うとはいえ、慣例の範囲を超えた注文ですから…当然の措置です。
まぁ…断裁料金は税込みで280円程度なんですけどね
B3は、4切よりわずかに小さいだけですから、四六判からは4切同様4面作ることができます。
だから、4の倍数でご注文いただく感じですね。
『B3規格のケント紙を40枚』というご注文と、『4切のケント紙を40枚』というご注文…。
これ、ほぼ同じようなモノを納品することになりますが、B3規格を作るためには断裁料金が280円かかるので、1枚あたり7円アップでご請求しないとウチが赤字になります。
まあ、それが400枚仕上がりのご注文であれば1枚あたり0.7円だし、1,000枚仕上がりのご注文なら1枚あたり0.28円なので微々たるものになるのですが、ウチが規格サイズでのケント紙や画用紙のご注文をあまりおすすめしないのは…こういう理由からです。
手間賃まで払って…わざわざ小さいサイズに切り縮めちゃうなんて。
それに、断ち落とした部分は捨てちゃうんですよ?
(ま、焼却ではなく、古紙として再生紙の原料になるんでしょうが…)
ちなみに、四六判の4切ならば、まったく捨てるところなく納品出来ますよね。
(四六判の少量の4切では、断面をキレイに見せる化粧断ちはしません。だから、完全に捨てるところなく納品されます。仮にガッツリ化粧断ちされたとしても四六判の面積の0.1~0.2%程度の廃棄です)
これをJIS規格のB3サイズに断裁するのなら、四六判の面積の12.78%を捨てることになります。
手間賃払って、12%も小さくされて、どこかにメリットあるのかしら?
それに規格サイズぴったりだと、その大きさの木製パネルには水張りは出来ませんし、前にも申しましたが…余分がある方が自由な発想や自由な作業を促す…とも考えられます。
最近の傾向なのかなぁ~
まぁ、昔の先生方はそんな細かいことなんか意識しないで、普通に『4切』や『8切』でご注文くださってました。
それが常識でした。
ケント紙や画用紙を、わざわざ規格サイズに “切り縮める” なんて発想は無かったんです。
実際、授業で使う紙なんですから…少しでも面積が大きい方が良いですしね。
でも最近はなぜか…本当になぜか、規格サイズでのご注文が多くなりました。
しかも廃棄が少ないB列ではなく、なぜかA3やA4でのケント紙や画用紙のご注文が寄せられます。
なぜA列?
その意図は有るの?
B列なら無駄がそれほど出ないんですが、A列だとけっこうな…マジでけっこうなロスが生じるんですよ。
それ、先生達はわかってるのかなぁ?
ちなみに、印刷工場でA列仕上げの印刷物を作る時は、四六判の印刷用紙を使うと断ち落としで捨てる部分がとても大きくなってしまうので、無駄が少なくて済む『菊判』か『A本判』の印刷用紙を使うんです。
四六判からA列を切り出すんだと、無駄がやたら出まくりなんですよ。
これは、製紙・印刷・画材の業界では常識です。
美術の教員の間でも常識だったはず。10年くらい前までは…。
だから、四六判やB本判からA列を切り出すのは、ナンセンスなんです!
不可能ってわけじゃないですけど、普通はやらないんです!
ちなみに四六判からA3サイズを切り出すと、5面作れて…四六判の面積の27.45%を捨てることになります。
27%ですよ!
4分の1以上捨てちゃうんですよ!
これ、別の言い方をすると…A3の面積の1.89枚分捨ててることになるんです。約2枚分!
ひとつ下のA4サイズを四六判から切り出すと、11面作れて元の紙の面積の20.19%を捨てることになります。
ほら、こっちは5分の1を捨てちゃってる!
A4の面積で見たら2.78枚分、捨ててるんです。
これって正義なのかなぁ。
いや、断裁料金だの廃棄だの…もろもろのコストに勝る『意図』があるのならいいんですよ。
“意図” があるのなら…。
一昨年あたりだと、『新型コロナウイルス感染拡大のため登校禁止。自宅学習用に生徒宛てに美術以外の教科も含めて課題を郵送することになり、A4のクリアホルダーに挟まなければならないので…』と、A4でのケント紙や画用紙のご注文が、けっこうありました。
あるいは、『提出された作品のうち…良いもの数点を硬質カードケースに収納して保管。参考作品として生徒に見せるために規格サイズでないとダメ』と、規格サイズにこだわられる学校もあります。
でも、そういう『必要』に迫られての規格サイズのご注文ならいざしらず、特に若い先生達は『A列でもB列でも、すべての規格サイズの画用紙やケント紙が、画材屋には用意されているはず』って思ってらっしゃるように感じます。
ホント、すみません
用意出来てなくて…
家電量販店やホームセンターのコピー用紙売り場とは、やり方が違いますんで…。
ご注文をいただいてから、それに合わせて紙問屋さんに切ってもらうんですよ。
だって、紙って切っちゃったら大きいサイズに戻すことはできませんからね。
あらかじめ切っておくんだとしたら最もよく出る4切くらい。あと、8切も少し…。
その程度です。
それが当たり前なんです。
画用紙やケント紙に、A列やB列の『既製品』なんて、ないんです。
ご注文受けてから作るんですよ。
で、仕上がりがB列ってことなら…まだわかりますよ。
無駄が出るとしても12.78%だし…。
実際、美術科が有る芸術系の高校からは『B3規格とB3水張り用 (4切) の画用紙とケント紙』みたいな感じで大量にご注文いただきます。
規格サイズと4切は、それぞれ用途に応じて使い分けてらっしゃるのでしょう。生徒さんもさまざまな課題をこなすうちに規格サイズと4切の違いを身をもって感じられるはず。
これはこれで、大事な経験です。
また、こちらの学校からのご注文は一度の量が800枚とか1,000枚超とかですから、断裁料金もウチが楽々サービス出来るんです (ウチは紙問屋さんにはちゃんと支払ってますよ
) 。
それに、こういう学校からはA列規格への断裁のご注文は、まず来ません。
先生達もさすがに “常識” をご存知ですから…。
しかし、なぜ若い世代の先生達は全判の面積の4分の1や5分の1も捨てちゃうようなA列の大きさにこだわってらっしゃるのかしら?
いや、確かに美術出版のカタログなどに、A4のケント紙や画用紙も載ってますわ。
でもそれは、最近やたらと増えてるA列規格での注文に対応するため、仕方なくカタログに載せてる『既製品』。
イメージとしては…授業で使う “素材” というよりも、『パックものの製品』ですよ。
例えば “色上質紙A4パック” とかと同様の…。
つまり…カタログに出ているA4のケント紙や画用紙は、本来の紙の価値に断裁料金などの余計なコストを載せた金額になっている…って考えるべきです。
こういうのをカタログで見つけて、『カタログに載ってるじゃん。有るじゃん! なんで3ダースサンは “A列とかは無いんですよ” って言うの? 有るじゃん! 3ダース、バカなんじゃん? 結局自分の方が世の中のコト知らないんじゃん?』ってみなさん思うでしょうが、逆に…あんなショボい製品を先生方に薦めたくないんですよ、ウチは。
あのカタログは “画材カタログ” ではなく、あくまでも “教材カタログ” 。
画材として評判の良い物を載せているのではなく、教材としての最低限の体裁を保った既製品を載せてるだけなんです。
(額縁や仮縁も、ショボいものばかりです。額や仮縁の事も、カタログを見るのでなく別途ご相談ください)
カタログに出ている規格サイズのケント紙や画用紙は、ウチがオススメしているケント紙や画用紙より、確実に1ランク…、下手すると2ランクぐらい下の紙。
それを、みなさんは『やっぱりカタログ開いたら自分が欲しい寸法の紙が見つかった
』と喜んでショボい物を発注なさってるんです。
ウチと長い付き合いの先生方は、画用紙だのケント紙だのは、カタログなんか見ずにご注文くださいます。
ウチも、なるべく良いものを使って欲しいと思ってますし、可能な限りサービスもしているつもり。
でも若い世代の先生方は、ウチにオススメの画用紙を問い合わせたりすることもなく…わざわざカタログからショボいケント紙や画用紙を見つけ出し、聞きなれたJIS規格の寸法が有ることに小躍りしながら型番指定でご注文をなさいます。
あんな、どこのメーカーが作ってるのかわからないケント紙や画用紙を…正直、使ってほしくないんですよ。
実際、美術用紙専門のメーカーであるM社やO社の製品じゃないことだけは確かですからね。
どうしてもA列が必要なのか、まず…考えてみましょうよ。
特にこだわりが有るのでなければ、4切や8切で良いんじゃないですか?
なんでみなさん、学生さんの特権を放棄させちゃうの?
規格サイズにこだわらなければ断裁料金はタダなのよ。
断ち落とされず、大きいまま手元に届くというメリットも感じていただきたいです。
なぜみなさんがA列規格を欲しがるのか…今後のために3ダースに教えてください。
なお、もちろんウチでもA3やA4の断裁のご注文はお受けできますよ。
しかし、A3は原紙寸法から5面作れるので5の倍数で、A4は11の倍数でのご注文とさせていただきます。
また、前述の通り断裁料金は加算させていただきます。
そのかわり、教材カタログのショボい紙より自信をもってお薦めできる紙をお届けしたいと思っております。
また、ウチで在庫している画用紙の4切のご注文であれば、50枚や100枚の束でのご注文でなくとも、生徒さんの人数に合わせた端数でのご注文にも、対応しております。
(まぁそれでも、なるべく4の倍数でご注文いただけるとありがたいですが
)
【第7回終わり】
恐ろしいです。