“3ダースメルマガ”をお読みいただいている若い先生からのご質問
今回は画用紙の詳しいハナシをする予定だったのですが、“3ダースメルマガ” をお読みいただいている若い先生からご質問をいただきましたので、その回答と解説をみなさんにも共有していただきたく、予定を変えてお話させていただきます。
『模造紙とは? 上質紙とは? もちろん名前は知っているがその詳しい定義を知りたい』というような内容のご質問でした。
みなさんも、いざ誰かにそう聞かれると…上質紙と模造紙、同じ物なのか違う物なのかイマイチご判断出来ないかもしれませんよね?
では、明確にお答えいたしましょう。
いや、厳密に判断すると本当は “別モノ” なんですよ。
でも、“常識的な観点” で見たら『同じもの』と言ってしまって良いと思います。
実際のところ…現在、模造紙と呼んで売られている紙のほとんどの物は、上質紙という紙の…原紙寸法 (四六判) そのままの紙です。
で、その上質紙をA4とかB4といった “規格サイズ” に断裁したものが『コピー用紙』と呼ばれています。
みなさん、コピー用紙ならご存じですよね?
つまり、模造紙もコピー用紙も、どちらも上質紙ってことなんですね。
ただ、コピー用紙には古紙パルプを使った再生コピー用紙というのも存在します。
古紙パルプを混ぜてある紙は『上質紙』とは呼んではいけませんので、それは覚えておいてください。
ではここからもう少し詳しいハナシ。
上質紙とは
わざわざ『上質』なんて立派なコトバで呼ぶんだから、さぞかしゴージャスでハイグレードな紙なのかな?…と思う人もいるかもしれませんが、上質紙は “いたって普通の紙” です。
なんら特別感の無い、ごくありふれた、どこにでもある紙です。
だって、コピー用紙ですから
コピー用紙…すなわち “PPC用紙” のPPCは『plain paper copier = 普通紙複写機』のこと。
特別なんかじゃない、フツ~~の紙なんですよ。
でもね、これ35年くらい前だと…やっぱ『上質~っ
』って感じでしたね。
“上質紙があるってことは?”
はい、『中質紙』ってのも…あります。
『中質紙』と『更紙 (ざらがみ・ざらし) 』
経産省の分類では『上級印刷紙』・『中級印刷紙』・『下級印刷紙』とグレードが分けられています。
中級印刷紙のグレードに位置するのが中質紙です。
“じゃあその下は低質紙?”
中質紙の下は『更紙 (ざらがみ・ざらし) 』っていう紙になります。
更紙は、価格の安さから最近注目を集めてるようですね。
若い先生達には馴染みのないコトバかもしれませんが、『わら半紙』って呼ばれてた紙が…この “更紙” です。
学校の印刷室には『苫更 (とまざら) 』と印刷された段ボールがいくつも積んでありました。
(王子製紙苫小牧工場で作られたら更紙ってことです)
ちなみに “わら半紙” と呼ばれていたからといって、更紙の原材料に藁は入ってません。
明治の初めのころ、西洋式の抄紙機を使って洋紙を作る工場がいくつも乱立したのですが、木材から安定的にパルプを得る技術が身に付いていなかったため、慢性的な原料不足に悩まされていました。
実はヨーロッパでは、不要になった衣料 (ボロ) を回収し…その繊維からパルプを得て原料にあてていたのですが、日本人はなかなかモノを捨てず、不要になった衣料は雑巾や乳幼児のオムツなどにひたすら繰り返して再利用する…という国民性だったので、抄紙工場を指揮していたお雇い外国人の技師たちの思惑通りに事が運ばなかったのです。
それを日本人の若い技師が…『西洋では麦わらからもパルプを得ていると聞く。ならば日本では稲わらからパルプを得られるのでは?』と指導者に進言し、見事初期の原料不足を乗り切った…とのこと。
この人が埼玉 (坂戸近辺) 出身の大川平三郎さんですね。
大川さんは日本の製紙王と呼ばれる人で、渋沢栄一さんと二人三脚で日本の製紙業界草創期を駆け抜けた偉人です。
確かに一時期、稲わらは紙の原料不足を補う大事な一つのピースでした。でもほどなく木材から安定的にパルプを得られる技術を身に付け、以降…稲わらが紙の原料になることはなくなりました。
更紙って、すぐ茶色く変色しちゃうんですよね。
昔の新聞紙もそうでした。
『機械的方法』と『化学的方法』
木材からパルプを取り出す方法は大きくわけて二つ。
『機械的方法』と『化学的方法』。
機械的方法は読んで字のごとく、機械で木材を叩いて砕いて…擦り潰し、パルプを取り出す方法。
木材の重量100に対して95相当のパルプを取り出すことができますが、リグニンという成分は除去できないんです。
このリグニンが紙を変色させ、紙を劣化させるんです。
一方の化学的方法は、酸やアルカリの薬液で木材をドロドロに煮溶かし、パルプを取り出す方法。
リグニンは薬液で分解されてくれるので、パルプ内に残留しません。しかし肝心のパルプもけっこう分解されてしまい、木材重量100に対して50以下のパルプしか得られません
下級印刷紙…すなわち更紙の用途は、漫画雑誌の中身の紙など。
下級印刷紙は、使用するパルプのうち…機械的方法で作られたパルプが60%以上で、白色度55%程度のもの…と定められているそうな。
中級印刷紙…すなわち中質紙は、機械的方法で作られたパルプが60%以下で…化学的方法で作られたパルプが40~90%のもの。
白色度は65~75%と定められているそうな。
中質紙の用途は、雑誌や書籍の中身の紙。
文庫本の中身の紙も、まっ白じゃないですもんね。
ただ、あれはおそらく出版社によって色みが決まっていて、紙を染めてああいうクリーム色に仕上げているんだと思います。
上級印刷紙…すなわち上質紙は、化学的方法で作られたパルプ100%のもの。
白色度は75%以上と定められているそうな。
つまり、古紙パルプを混ぜてあるものは…どんなに白くても上質紙とは呼べません。
上質紙の用途は…断裁せずに模造紙として使ったり、規格サイズに断裁してコピー用紙にしたり、罫線を印刷して製本し…ノートにしたり。
また、表面に加工をして様々な印刷用紙を作るベースとしても使われるようです。
(中質紙も同様と思われます)
先程挙げた経産省の『上級印刷紙』~『下級印刷紙』という分類は、非塗工紙 (ひとこうし) と呼ばれる紙の分類であって、みなさんが普段目にする様々な印刷物に使われる塗工紙 (とこうし) とは別モノです。
表面がツルツルテカテカなチラシなどはすべて…この塗工紙です。
っていうか、ほとんどのカラー印刷は専用の塗工紙に行われます。
コート紙とかアートポスト紙…マットコート紙などという紙の名前をお聞きになったことがあるかもしれませんが、これらが代表的な塗工紙です。
たいていの塗工紙は、製紙の段階から専用の添加剤などを入れて作り、仕上げの段階で表面と裏面に塗料を施します。
塗工することで印刷インクのにじみを防ぎ、インクの乾燥を速め、インクの発色も良くなります。
上質紙や中質紙をベースとして利用し、製紙後に塗工作業をする場合もあるようです。
表面がインクを吸いやすいので精密なカラー印刷には向きませんが、優れた紙の白さのため…印刷された文字はくっきり見えます。
塗料でコーティングしていないので、表面は適度なつや消し。
目にやさしく、筆記性にも優れています。
中には、製紙の最終段階で金属ローラーの間に紙を通し、『艶付け』を施す上質紙もあるようです。
あまりに当たり前な存在になってしまった上質紙ですが、改めてそのありがたみを感じてみたいものですね。
まさに “上質 ” な気持ちです。
毎度のごとく長くなりました。『模造紙のハナシ』は次回に持ち越しです。
【第9回終わり】